レザーサドルといえばBROOKS。自転車の歴史を彩る「BROOKS ENGLAND」の物語を深掘りする

こんにちは、ヒロヤスです。
大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。 僕のブログをいつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。
さて、今回は、多くの自転車愛好家が一度は憧れるであろう、あのブランド、BROOKS ENGLANDについて、僕なりに深く掘り下げてみたいと思います。
僕がクロモリの自転車を組む時、ハンドルやサドル、バーテープの選択は、まるでその自転車の「顔」を決めるような、とても大切な工程だと感じています。そんな時、頭に浮かぶブランドがいくつかありますが、BROOKSはその中でも特別な存在感を放っています。
単なるパーツブランドという枠を超えて、まるで歴史や文化そのものを纏っているかのような、そんな雰囲気を持っていると思いませんか?
今回は、そのBROOKSがなぜこれほどまでに自転車乗りを魅了し続けるのか、その秘密を紐解いていきたいと思います。創業者の想いから、プロダクトに込められた哲学、そして現代に続くその物語まで、僕の知る限りの全てを皆さんにお伝えしたいと思います。
時代を超えて愛されるBROOKS ENGLANDの歴史
BROOKS ENGLANDの物語は、1866年、イギリス中部の工業都市バーミンガムで、ジョン・ボルトビー・ブルックス氏が小さな馬具工房「JB Brooks & Co.」を立ち上げたことから始まりました。
この頃のイギリスは、蒸気機関による工業化が急速に進み、人々の暮らしが大きく変わりつつある時代です。馬具職人としての彼は、最高の革製品を作り出すことに情熱を注いでいました。
転機が訪れたのは1878年。ブルックス氏が愛馬を亡くし、移動手段として自転車に乗り始めたことがきっかけでした。しかし、当時の自転車に使われていた木製のサドルは、硬く、とても乗り心地が悪かったそうです。長年、馬具で培ってきた革の知識と技術を持つ彼にとって、この不快感は許せないものだったのでしょう。
「この乗り心地を何とか快適にできないものか」。
彼は、馬の鞍を作るように一枚の厚い革を吊り下げて、革新的なサールの試作を始めました。この自作のサドルが驚くほど快適だったのです。
この発見から、ブルックス氏は馬具製造から自転車用の革サドル製造へと、事業の舵を大きく切ることを決意します。そして1882年10月28日、彼は自身の発明品である革製サドルの特許を出願しました。この特許こそが、後の自転車界に革命を起こす第一歩となったのです。
彼のサドルは、単に乗り心地がよいだけでなく、「使い込むほどに乗り手の体に馴染む」という、それまでのサドルにはなかった新しい価値を提供しました。この「育てる」という要素は、瞬く間に評判を呼び、多くの自転車メーカーがこぞって採用するようになりました。
1888年には、現在でも定番として愛され続ける名作「B17サドル」が発表されるなど、ブルックスは自転車の進化と共にその歴史を深く刻んでいったのです。
BROOKSが貫くモノづくりの哲学
BROOKSの製品は、その美しいデザインだけでなく、創業当時から変わらない「伝統的な手仕事」と「機能性への追求」という哲学が息づいています。
彼らがこだわるのは、何よりも「天然素材」である革です。一枚の厚い革を、熟練の職人が時間をかけて成形し、鋲で固定していく。このシンプルな構造が、乗り手の体重を支え、振動を吸収し、そして乗り続けることで独自の形状に変化していくという、唯一無二の乗り味を生み出しています。
また、ただ古い製法に固執するわけではありません。近年では、サドルだけでなく、バッグやグリップ、バーテープといったアクセサリー類も数多く手掛けています。革以外の素材、例えば耐久性の高いキャンバス地や、軽量なカーボン素材なども積極的に取り入れ、クラフトマンシップと革新性を融合させているのもBROOKSの大きな魅力です。
日本におけるBROOKS
日本にBROOKSの製品が入ってきたのは、正確な年代を特定するのは難しいですが、多くの自転車愛好家にとって憧れのブランドとして定着しています。
特にクロモリフレームの自転車との相性は抜群で、スチールフレームの細身のパイプと、革の温かみが醸し出すクラシックな雰囲気が見事に調和します。街乗り用のミニベロや、ツーリング用のランドナー、最近ではグラベルロードにBROOKSのサドルを合わせる人も増えてきました。
日本の自転車乗りは、モノを長く大切に使う文化が根付いています。BROOKSのサドルは、手入れをしながら何十年も使える耐久性があるため、そうした価値観にぴったりと合致しているのだと思います。使い込まれて飴色になったサドルや、味のあるキズがついたバッグは、乗り手の物語を語るかのような存在感を放ちます。
BROOKSを代表するプロダクト
サドル
B17 Standard
BROOKSのサドルの中でも、最も有名でクラシックなモデル。100年以上も続くデザインは、多くの自転車乗りに愛され続けています。長距離のツーリングから街乗りまで、幅広い用途に対応します。革が馴染むまで少し時間はかかりますが、その過程も楽しむことができるサドルです。

B17 Flyer
Brooks B17 Flyerは、B17スタンダードに後部スプリングを追加したモデルです。悪路や長距離のツーリングでの振動を効果的に吸収し、快適な乗り心地を提供します。クラシックな見た目はそのままに、より優れたクッション性を求めるライダーに最適です。長年にわたり、多くのツーリストに愛用されてきた信頼性の高いサドルです。

SWIFT
流れるような美しいデザインが特徴のレーシングサドル。細身のシルエットは、クラシカルなロードバイクにもよく似合います。軽量化されたチタンレールモデルなども存在し、スポーティーな自転車にも合わせることができます。

SWALLOW
Brooks SWALLOWは、1937年に登場したクラシックなレーシングサドルです。細く美しいシルエットは、現代のロードバイクにもよく似合います。軽量化のために、通常のモデルよりも薄いレザーを使用しており、よりスポーティーなライドに適しています。長年にわたってプロのロードレーサーたちに愛用されてきた、歴史あるサドルです。

B67
Brooks B67は、シティサイクルやコンフォートバイクに最適なレザーサドルです。1927年に登場した伝統的なモデルで、幅広の座面と後部のスプリングが特長。快適な乗り心地を追求しており、街乗りからツーリングまで、アップライトな乗車姿勢の自転車で力を発揮します。使うほどに体になじむ経年変化も楽しめます。

TEAM Pro
Brooks TEAM Proは、レーシングモデルとして設計されたレザーサドルです。細身で引き締まったシルエットは、クラシックなロードバイクやスポーティーな自転車に最適です。冷間鍛造された銅メッキの鋲がアクセントとなり、美しい仕上がりを誇ります。使い込むほどに味わいが増し、長年にわたって愛用できるサドルです。

Colt
Coltは、堅牢な作りと耐久性が魅力のレーシングサドルです。クラシックなデザインは、多くのバイクに馴染み、長距離のライドでも快適な乗り心地を提供します。特に、雨や汚れに強い特殊な革を使用しており、あらゆる天候下での使用に適しています。

C17 Cambium All Weather
天然ゴムとオーガニックコットンキャンバスをベースにした、全天候型のサドル。革ではないので、最初から快適な乗り心地を味わえます。手入れの必要がなく、雨の日でも気にせず乗れるので、日常的に自転車を使う人におすすめです。カラーバリエーションも豊富です。

ハンドルグリップ・バーテープ
- Slender Leather Grips 手縫いのレザーでグリップを覆った、クラシックなデザインのグリップです。サドルと同じ革を使用しているので、統一感のあるコーディネートが可能です。握り心地もよく、街乗りやツーリングで快適なサイクリングを楽しめます。
- Leather Bar Tape ロードバイクやドロップハンドルに最適なレザーバーテープ。手触りがよく、耐久性も高いのが特徴です。使うほどに手になじみ、愛車にヴィンテージ感を加えてくれます。
バッグ
- Barbican Shoulder Bag サドルと同様のレザーで作られた、クラシックなショルダーバッグ。馬具工房としての歴史を感じさせるデザインは、自転車に乗らないときでも、ファッションアイテムとして活躍してくれます。使うほどに風合いが増していくのも魅力です。
- Scapeシリーズ 近年、主流になりつつあるバイクパッキングに特化した、軽量で防水性の高いバッグシリーズ。サドルの革製品とは一線を画す、モダンで機能的なデザインが特徴です。ハンドルバーバッグやトップチューブバッグなど、様々なモデルが展開されています。
まとめ
今回の記事では、自転車パーツの枠を超えた存在感を放つBROOKS ENGLANDの深い魅力についてお伝えしました。
1866年の創業以来、馬具職人としての歴史に裏打ちされた手仕事へのこだわりと、天然素材である革の特性を最大限に活かすという創業者の哲学は、時代を超えて製品に脈々と受け継がれています。
彼らの製品がなぜこれほどまでに愛されるのか。それは、単なる機能性だけを追求するのではなく、使うほどに乗り手の体に馴染み、「育てる」という愛着のプロセスを大切にしているからだと僕は考えています。革に刻まれるシワやキズ、そして深まる色合いは、ただの経年劣化ではなく、私たちと自転車、そしてブルックスの製品が共に過ごした時間そのものを物語っています。
また、日本の「モノを大切に長く使う」という文化と、手入れをすれば何十年も使えるBROOKSの製品は、非常に高い親和性があると感じています。ブルックスの製品は、一度購入すれば終わりではなく、その後の「お手入れ」という行為を通じて、私たちにモノと向き合う時間を与えてくれます。この一連の体験こそが、単なる消費ではない、豊かで本質的なサイクルライフに繋がるのではないでしょうか。
アナログなモノづくりの温かさと、使い込むほどに深まる風合いは、デジタル化された現代だからこそ、より一層輝きを放っているのではないでしょうか。あなたの愛車にBROOKSのパーツが一つでもあれば、それはきっと、単なるパーツではなく、あなただけの物語を共に歩む大切な相棒になっているはずです。
皆さんはBROOKSのプロダクトにどんな思い出がありますか? もしお持ちのアイテムがあれば、ぜひそのエピソードをコメントで教えてくださいね。
それでは、また次の記事で会いましょう!ヒロヤスでした!