自転車うんちく系

魔法のサドル、B17。100年を越えて愛される理由を解き明かす

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こんにちは、ヒロヤスです。大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。

僕のブログをいつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。さて、今回は自転車のパーツの中でも、僕が最も特別な存在だと感じているアイテムについて、他のどの記事よりも深く掘り下げてみたいと思います。

その名は、Brooks B17

「ブルックスの革サドル」という言葉を聞いたことがある人は多いかもしれません。しかし、なぜこのサドルが100年以上の時を超え、今もなお世界中のサイクリストに愛され続けているのか、その本質に迫る記事は意外と少ないものです。今日は、ただのサドルではない、B17が持つ魔法の秘密を、余すことなくお伝えします。

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偶然から生まれたブルックス社の哲学

B17の物語は、1866年、イングランド中部のバーミンガムで馬具製造会社を営んでいたジョン・ボルトビー・ブルックス氏の身に起こった、ある偶然の出来事から始まります。

彼はある日、愛馬を失い、自転車で移動することを余儀なくされました。しかし、当時の木製のサドルは硬く、乗り心地が最悪でした。この不快な体験が、彼の馬具職人としての魂に火をつけます。彼は、馬の鞍を作る技術を応用し、鋼のフレームに革を張ったサドルを考案しました。

1898年に特許を取得し、世に送り出されたのが、このB17の原型です。このサドルは、瞬く間に快適性を求めるサイクリストたちの間で評判となりました。

ブルックス社が創業以来貫いてきたのは、決して流行を追うことではありません。最高の素材と職人の技術を用いて、時代を超えて愛される「熟成」のプロダクトを生み出すこと。この揺るぎない哲学が、100年以上も形を変えないB17という唯一無二の存在を確立したのです。

B17の構造と、革が持つ命の秘密

B17は、見た目以上に緻密な設計と、素材への深い理解に基づいて作られています。

ハンモック構造とテンションボルト

B17は、金属のレールに厚みのある革をピンと張ることで、まるでハンモックのような構造を作り出しています。この構造が、路面からの微細な振動を革が吸収し、ライダーに伝わる衝撃を大幅に軽減してくれます。これが、B17が持つ独特の「乗り心地の良さ」の秘密です。

サドルの先端には「テンションボルト」と呼ばれるネジがあります。これは、乗り込んで革が伸びてきた際に、革の張りを調整するためのもの。ライダーが自らメンテナンスすることで、サドルを常に最適な状態に保ち、長く使い続けることができるのです。

唯一無二の素材、植物タンニンなめし革

B17の心臓部は何といっても、厳選された「植物タンニンなめし革」です。この革は、化学薬品を使わず、植物から抽出したタンニンで時間をかけてなめされます。そのため、非常に丈夫でありながら、柔軟性も持ち合わせています。

この革が、まるで生き物のようにライダーの体重やペダリングの動きに合わせて少しずつ形を変えていくのです。使い始めは硬く感じても、乗り込んでいくうちに、その人のお尻の形にぴったりとフィットしていきます。

B17は「育てる」サドル

これが、B17の最大の魅力であり、他のサドルと一線を画す点です。B17は、買ってきてすぐに最高のパフォーマンスを発揮するサドルではありません。まるで革靴やジーンズのように、乗り手と共に時間をかけて「育てる」サドルなのです。

ナラシ(慣らし)という儀式

使い始めの数週間から数ヶ月は、サドルがまだ硬く、お尻が痛くなることもあります。これを「ナラシ」と呼び、ライダーはB17を「自分のもの」にするための最初の試練を乗り越えます。この過程があるからこそ、サドルが自分の体に馴染み、唯一無二の相棒へと進化するのです。

このナラシの期間を乗り越えた時、B17は魔法をかけたように快適なサドルへと変貌します。それは、単に乗り心地が良くなっただけでなく、苦楽を共にした相棒を手に入れた、という深い満足感にもつながります。

B17を長く愛用するためのメンテナンス術

B17は、適切に手入れをすることで、何十年も使い続けることができます。このメンテナンスも、B17を育てる楽しみの一つです。

純正オイル「Proofide」の魔法

ブルックスは、自社製の純正オイル「Proofide(プルーファイド)」を販売しています。これは、革に栄養と柔軟性を与え、防水性を高めるためのものです。新しいサドルには、使い始める前に革の裏表に薄く塗り込むことで、ナラシの期間を短縮し、革を保護する効果があります。その後は、数ヶ月に一度のペースで塗るのがおすすめです。

[TIPS] オイルアップの「裏側」にまつわる話

先ほど、オイルアップは裏面を中心に、とお伝えしましたが、実はこのやり方は、革サドル愛好家の間では少し意見が分かれる部分でもあります。

裏面にオイルを塗ると、革の繊維が内側から柔らかくなり、早く馴染むというメリットがあります。一方で、「革が柔らかくなりすぎる」「ハンモックのテンションが落ちやすい」といった理由から、あえて裏面にはオイルを塗らないという考え方もあります。これは、どちらが正しいというものではなく、**「好みの問題」や、「革を育てる上での流儀」**のようなものです。

裏面へのオイルアップを行うか否かは、あなたのサドルとの付き合い方を決める、小さな「宗派」のようなもの。ぜひ、様々な情報に触れて、あなたなりの方法を見つけてみてください。

テンションボルトの調整

革が伸びてきて張りが緩くなってきたら、サドルの下にあるテンションボルトを少しずつ締めていきます。この調整は、一度に大きく回すのではなく、4分の1回転ずつ慎重に行うのがコツです。革の張り具合を自分で調整することで、常に最高の乗り心地を維持できます。

雨と乾燥に注意

B17は天然の革でできています。そのため、雨に濡れると革が伸びてしまい、形が崩れる原因になります。万が一濡れてしまった場合は、布で水分を拭き取り、陰干しでじっくりと乾燥させてください。また、極端な乾燥も革にダメージを与えるため、定期的なオイルアップが不可欠です。

B17が愛される理由と、多様なラインナップ

B17は、その普遍的なデザインとストーリー性から、多くのサイクリストに愛されています。クロモリフレームのツーリングバイクやクラシックなロードバイクとの相性は抜群で、B17を装着するだけで、自転車全体に深みと品格が生まれます。

ブルックスは、ライダーの多様なニーズに応えるため、B17をベースに様々なモデルを展開しています。

ラインナップ

  • B17 Standard: すべての基本となるモデル。
  • B17 Special: 銅製のリベットと手打ちのハンマードリベットが施された、より高級感のあるモデル。
  • B17 Imperial: 革の中央に穴を開け、尿道の圧迫を軽減する機能を持たせたモデル。
  • B17 Carved: Imperialと同様のカットアウトが施されたモデル。
  • B17 S(Short): 女性やアップライトな姿勢のライダー向けに設計された短めのモデル。
  • B17 Narrow: ロードバイクなど、より前傾姿勢をとるライダーに適したスリムなモデル。

これらのラインナップは、B17という伝統を大切にしながらも、現代のサイクリストの快適性を追求するブルックス社の姿勢を示しています。

まとめ

Brooks B17は、単なる自転車のサドルではありません。それは、100年以上の歴史と、職人の魂、そして何よりも、乗り手との間に生まれる物語を内包した、特別な存在です。

サドル選びは、機能やデザインだけでなく、そのプロダクトが持つ哲学や、共に時間を過ごす喜びを考慮するべきだと、僕は思います。B17は、その選択に応え、乗り手の人生に寄り添い、共に時を重ねていく「最高の相棒」となってくれるでしょう。

皆さんのB17に対する思い入れや、ナラシの思い出はどんなものですか?ぜひコメントで教えてくださいね。

それでは、また次の記事で会いましょう!ヒロヤスでした!

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中の人はCrust evasion乗り。クロモリ自転車とデザイン・作品制作に明け暮れる30第半ばのクリエイター。 海外の自転車ニュースやいろいろなフレーム・パーツがとても気になり、あれこれ見て調べてってやるならそれをまとめて見よう、ということでこのブログを解説しました。 飽き性が出ないよう根気よく続けていこうと思います。
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