フレーム紹介

Black Mountain Cycles “Road”フレーム ― 魔法の絨毯は、過去と未来をつなぐ道の上にある

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こんにちは、ヒロヤスです。大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。

僕のブログをいつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。さて、今回は、僕がずっと気になっていた一本のフレームについて、じっくりとお伝えしたいと思います。その名は、Black Mountain Cyclesの”Road”。一部では”Road Plus”とも呼ばれるこのフレームは、ただのロードバイクという言葉では到底収まりきらない、深い魅力と哲学に満ち溢れています。

昨今の自転車業界は、カーボン全盛、ディスクブレーキが当たり前。もちろん、それらの進化がもたらす恩恵は計り知れません。でも、僕たちのようなスチールフレームを好む人間は、どこかで「これでいい、これがいい」と思えるシンプルな自転車の姿を探しているのではないでしょうか。

Black Mountain Cyclesは、そんな僕たちの心の隙間に、そっと寄り添ってくれるような存在です。派手なプロモーションがあるわけでもなく、メディアへの露出が多いわけでもありません。しかし、そのプロダクトに触れた人々の口コミは熱を帯び、じわじわとその魅力が伝播している。そんな実直なブランドが作る”Road”フレーム。今回は、他のどのブログ記事よりも深く、その本質に迫っていきたいと思います。

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シンプルさの中に宿る哲学 ― Black Mountain Cyclesの物語

このフレームの話をする前に、まず作り手であるMike Varley(マイク・ヴァーリー)氏と、彼が立ち上げたBlack Mountain Cyclesというブランドについて触れないわけにはいきません。

マイク氏は、BMXやMTBで名を馳せた「Haro Bikes」や、イタリアの老舗ブランド「Masi」で、長年プロダクト開発とフレーム設計に携わってきた人物です。つまり、自転車業界の酸いも甘いも知り尽くした、まさに”プロ中のプロ”。そんな彼が、大手ブランドでの経験を経て、2007年にカリフォルニアのポイント・レイズ・ステーションという小さな町で自身のバイクショップ「Black Mountain Cycles」をオープンさせました。

彼が目指したのは、昔ながらの、オーナーが自らホイールを組み、メカニックが店の中で作業をするような、タイヤとチェーンルブの匂いがする温かいバイクショップ。そして、自身のブランドを持つことでした。流行のスペックや目まぐるしいモデルチェンジを追いかけるのではなく、自分が本当に良いと信じ、長く乗り続けられる自転車を作りたい。その想いが結実したのが、Black Mountain Cyclesのフレームたちです。

彼の作るフレームは、決して最先端の技術を追い求めたものではありません。むしろ、その逆。自転車が持つ普遍的な楽しさや美しさを、現代的な解釈で再構築することに重きを置いています。特にこの”Road”フレームは、彼の自転車に対する哲学が色濃く反映された一本と言えるでしょう。

デザインのインスピレーションは、伝説的なロードレーサー、エディ・メルクスが乗っていたバイクのグラフィックから。しかし、単なる懐古趣味ではないのがマイク氏のすごいところ。クラシカルなリムブレーキ(ミッドリーチキャリパー)を採用しながらも、現代の標準となりつつある太めのタイヤ(最大700x35c)を飲み込むクリアランスを確保しています。これは、「快適なタイヤで、舗装路も少し荒れた田舎道も、魔法の絨毯のように駆け抜けたい」という彼の思想の現れなのです。

速さだけが正義ではない。快適に、遠くまで、そして何より楽しく。Black Mountain Cyclesの”Road”フレームは、自転車との付き合い方をもう一度、僕たちに問いかけてくれるような、そんな深い背景を持ったフレームなのです。

数字が語る快適性の秘密 ― ジオメトリを読み解く

自転車の乗り味を決定づける最も重要な要素、それがジオメトリ(設計寸法)です。ここでは、公式サイトのジオメトリ表を元に、この”Road”フレームがなぜこれほどまでに快適だと言われるのか、その秘密を紐解いていきましょう。

Road フレーム ジオメトリ (2025年モデル)

SizeSeat Tube (C-T)Top Tube (Effective)Head AngleSeat AngleChainstayBB DropHead TubeFork Offset
50cm50053572°74°4257213550
53cm53055572.5°73.5°4257215850
56cm56057573°73°4257018545
59cm59059573°72.5°4307021245

(公式サイトより抜粋。以前のモデルとは数値が異なる箇所があります)

サイズ別適応身長の目安 一般的に、以下のような身長の方が乗りやすいとされていますが、手足の長さには個人差があるため、あくまで目安としてください。

  • 50cm: 165cm~173cm
  • 53cm: 170cm~178cm
  • 56cm: 175cm~183cm
  • 59cm: 180cm~190cm

この表の中から、僕が特に注目するのは以下の3つの数値です。

1. BBドロップ (BB Drop)

BBドロップとは、前後の車軸を結んだ線から、ボトムブラケット(クランク軸)がどれだけ下がっているかを示す数値です。この”Road”フレームは、多くのロードバイクが65mm~70mm程度なのに対し、70mm~72mmと大きめに設定されています。

BBドロップが大きいと、自転車全体の重心が下がります。これにより、走行時の安定感が格段に増し、特にコーナーリングでは地面に吸い付くような感覚で安心して曲がることができます。ロングライドでの疲労が溜まってきた場面でも、この安定感は大きな助けになるでしょう。自転車に跨った瞬間に感じる「あ、これは乗りやすい」という感覚は、この低重心設計から生まれているのです。

2. チェーンステー長 (Chainstay)

チェーンステーは、BBから後輪の車軸までの長さです。一般的なロードバイクが405mm~415mm程度であるのに対し、このフレームは425mm~430mmと長めに設計されています。

チェーンステーが長いと、ホイールベース(前後の車軸間の距離)も長くなり、直進安定性が向上します。ペダリングに対してクイックに反応するレーシングバイクとは対極の、穏やかでマイルドな乗り心地は、この長めのチェーンステーによるところが大きいです。また、物理的にリアタイヤとシートチューブの間にスペースが生まれるため、太いタイヤを装着できるクリアランスの確保にも貢献しています。この「長さ」こそが、魔法の絨毯のような乗り心地を生み出す重要な要素なのです。

3. ヘッドアングル (Head Angle)

ヘッドアングルは、地面に対するヘッドチューブの角度です。数値が小さいほど(寝ているほど)、ハンドリングは穏やかになります。このフレームは**72°~73°**と、レース用ロードバイクと比較するとやや寝かせ気味。これにより、クイックすぎない、落ち着いたハンドリングを実現しています。

これらのジオメトリが組み合わさることで、Black Mountain Cyclesの”Road”は、スピードを追求するのではなく、一日中乗っていても疲れにくい、安定した快適な乗り心地を提供するという明確な思想が浮かび上がってきます。数字は嘘をつきません。このフレームは、まさに長距離を旅するための設計なのです。

細部に宿るこだわり ― フレームスペックを深掘りする

ジオメトリがフレームの骨格だとしたら、スペックは筋肉や皮膚です。ここでは、”Road”フレームの細かなスペックを見ていきながら、その一つ一つに込められた作り手の意図を考えてみましょう。

  • 素材: 4130 ダブルバテッド クロモリチューブ
    • 自転車用クロモリ鋼管として、定番中の定番であり、信頼性の高い素材です。熱処理された高品質なチューブは、クロモリ特有の「しなり」とバネ感のある乗り心地を提供してくれます。ペダルを踏み込んだ力を優しく受け止め、心地よく推進力に変えてくれる感覚は、一度味わうと病みつきになります。
  • ブレーキ: ミッドリーチキャリパーブレーキ (47mm-57mmリーチ)
    • このフレームの最大の特徴の一つ。通常のロード用ショートリーチキャリパーよりもアームが長いことで、太いタイヤ(最大35c)とフェンダー(泥除け)を装着するクリアランスを生み出しています。ディスクブレーキ全盛の今、あえてこの規格を採用しているところに、マイク氏の「これで十分だし、これが美しい」という強い意志を感じます。メンテナンス性の高さも大きな魅力です。
  • タイヤクリアランス: 700c x 32c (フェンダーなしで最大35c)
    • 一般的なロードバイクが25c~28cなのに対し、圧倒的なクリアランスを誇ります。32cや35cといった太めのスリックタイヤを履けば、路面からの細かな振動を吸収し、乗り心地は劇的に向上します。少し荒れた舗装路や、固く締まった砂利道くらいなら、臆することなく入っていけるでしょう。まさに”Road Plus”と呼ばれる所以です。
  • ヘッドセット: 1-1/8″ アヘッド
    • 現在も広く使われているスタンダードな規格。選択肢が豊富で、メンテナンス性も良好。クラシカルなルックスのスレッド式ではなく、現代的なアヘッド式を採用することで、ハンドル周りの剛性確保とセッティングの自由度を高めています。
  • リアエンド幅: 130mm QR
    • リムブレーキロードバイクの標準規格です。これにより、過去のロードバイクパーツとの互換性も高く、手持ちのパーツを活かしたアッセンブルも可能です。ディスクブレーキの135mmや142mmスルーアクスルとは異なる、この「普通さ」が嬉しいポイントです。

一つ一つのスペックは、決して目新しいものではありません。しかし、その組み合わせが絶妙なのです。伝統的な規格をベースにしながら、タイヤクリアランスという現代的な快適性をプラスする。この温故知新の精神こそが、Black Mountain Cyclesの真頂と言えるでしょう。

このフレームは、どんな冒険にあなたを連れ出すか

では、このBlack Mountain Cycles “Road”は、具体的にどんな人におすすめできるフレームなのでしょうか。僕なりに考えてみました。

  • スピードよりも快適性を重視するサイクリスト
    • レースでコンマ1秒を争うことには興味がない。それよりも、美しい景色を楽しみながら、一日中快適に走り続けたい。そんな方にこそ、このフレームの良さがわかるはずです。
  • クラシックなスタイルの自転車が好きな人
    • 細身のクロモリチューブ、水平なトップチューブ(ホリゾンタル)、そしてリムブレーキ。自転車が持つ普遍的な美しさを大切にしたい人にとって、このフレームは最高のキャンバスになります。
  • 自分で自転車をカスタムするのが好きな人
    • シンプルな規格で構成されているため、パーツ選びの自由度が高いのが特徴です。ヴィンテージパーツでクラシカルに組むもよし、現行のコンポーネントでモダンに仕上げるもよし。アッセンブルを考える時間も、このフレームの楽しみ方の一つです。
  • ロングライドやバイクパッキングに挑戦したい人
    • 安定したジオメトリと太いタイヤは、長距離走行での疲労を確実に軽減してくれます。フェンダーやキャリアを取り付けるダボ穴も備えているので、荷物を積んでのツーリングや、軽めのバイクパッキングにも対応可能です。走る道は舗装路がメインだけど、時々はグラベルにも…という使い方にぴったりです。

このフレームは、乗り手に「こう乗れ」と強制しません。むしろ、「君はどんな風に走りたい?」と優しく問いかけてくれるようです。あなたの自転車との付き合い方に合わせて、様々な表情を見せてくれる懐の深さを持っています。

ヒロヤス的 おすすめビルドプラン

もし僕がこのフレームを組むなら…と想像が膨らみます。ここでは、僕が考える「理想のBlack Mountain Cycles “Road”」のビルドプランを少しだけご紹介します。

テーマ:『ネオクラシック・オールロードツアラー』

クラシカルな見た目の美しさと、現代のパーツが持つ性能と信頼性を両立させ、どんな道でも気兼ねなく走っていける一台を目指します。

  • コンポーネント: Shimano 105 (R7000シリーズ) シルバー
    • 性能、信頼性、コストパフォーマンスのバランスが最も優れたコンポーネント。フレームの雰囲気に合わせて、ブラックではなくシルバーをチョイスしたいところです。
  • ブレーキ: Velo Orange Grand Cru Long Reach Brakeset
    • ミッドリーチキャリパーの中でも、特に美しい造形と高い制動力を兼ね備えた逸品。ポリッシュされたアルミの輝きが、フレームの魅力を一層引き立ててくれるはずです。
  • ホイール: H Plus Son “The Hydra”リム + Shimano 105ハブ (手組み)
    • クラシックすぎず、モダンすぎない絶妙なデザインのリムに、信頼性の高いハブを合わせて手で組む。チューブレスにも対応しているので、乗り心地をさらに追求できます。
  • タイヤ: Panaracer GravelKing Slick 700x32c (アメサイド)
    • 乗り心地の良さと走りの軽さ、そして耐久性を高い次元でバランスさせた名作タイヤ。サイドウォールがブラウンの「アメサイド」を選ぶことで、クラシカルな雰囲気を演出します。
  • ハンドル・ステム・シートポスト: NITTO製品 (シルバー)
    • 自転車パーツにおける”用の美”を体現する日本のブランド、NITTO。美しい仕上げのシルバーパーツで統一することで、全体の質感をぐっと高めます。ハンドルは、少し広がった形状のランドナーバーなども相性が良さそうです。
  • サドル: BROOKS B17 Standard
    • 使い込むほどに自分の体に馴染む、レザーサドルの代名詞。この自転車と長く付き合っていく、という意思表示も込めて。

こんなパーツ構成で組めば、週末のサイクリングから、荷物を積んだ長旅まで、最高の相棒になってくれること間違いなしです。想像するだけで、ワクワクしてきませんか?

まとめ

Black Mountain Cyclesの”Road”フレーム。それは、最新のスペックや軽さを追い求める現代のロードバイクシーンに対する、マイク・ヴァーリー氏からの静かな、しかし確固たるアンサーです。

自転車の歴史に敬意を払い、クロモリという素材の良さを知り尽くした彼が、現代のサイクリストが本当に必要としているものは何かを考え抜き、たどり着いた一つの答え。それが、このフレームには詰まっています。

低重心で安定感のあるジオメトリ、太いタイヤがもたらす極上の乗り心地、そしてリムブレーキが持つシンプルな美しさとメンテナンス性。これらの要素が奇跡的なバランスで融合し、「速く走る」という呪縛からサイクリストを解放し、「楽しく走る」という自転車本来の喜びを思い出させてくれます。

このフレームは、決して万人受けするものではないかもしれません。しかし、モノの背景にあるストーリーや作り手の哲学に価値を見出し、一つの道具と長く付き合っていきたいと考える人にとっては、これ以上ない選択肢となるはずです。

もしあなたが、次の自転車選びに迷っているなら。そして、心のどこかで「本当に欲しいのは、こういうシンプルな自転車なんじゃないか」と感じているなら。ぜひ、このBlack Mountain Cycles “Road”を候補の一つに入れてみてください。きっと、あなたの自転車ライフを、より豊かで味わい深いものにしてくれるはずですから。

この記事が、あなたの自転車選びの参考になれば嬉しいです。皆さんのご意見や、「私はこんな風に組んでいるよ!」というお話も、ぜひコメントで聞かせてください。

それでは、また次の記事で会いましょう!ヒロヤスでした!

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中の人はCrust evasion乗り。最近古いMuddyFOXも仲間入りしました。クロモリ自転車とデザイン・作品制作に明け暮れるアラフォーのクリエイター。 自転車のあれこれやニュースやいろいろなフレーム・パーツがとても気になり、あれこれ見て調べてってやるならそれをまとめて見よう、ということでこのブログにして行ってます。 飽き性が出ないよう根気よく続けていこうと思います。
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