BLACK MOUNTAIN CYCLES “La Cabra” – 哲学とジオメトリを紐解く、究極のドロップバーマウンテンバイク

こんにちは、ヒロヤスです。大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。 僕のブログをいつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。さて、今回は、僕がずっと気になっていた一本のフレームについて、深く、そしてじっくりとお伝えしたいと思います。その名は、BLACK MOUNTAIN CYCLES(ブラック・マウンテン・サイクルズ)の「La Cabra(ラ・カブラ)」。
このフレーム、ただの「グラベルバイク」や「モンスタークロス」という言葉で片付けるにはあまりにも惜しい、深い哲学とバックグラウンドを持っています。多くのブランドが流行を追いかける中で、ビルダーの純粋な経験と情熱から生まれた、まさに「本物」の匂いがする一本です。なぜこのフレームがこれほどまでに僕の心を掴むのか。その理由を、ブランドの歴史から、フレームに込められた思想、そして特徴的なジオメトリの分析まで、どこよりも詳しく掘り下げていきたいと思います。自転車が好きで、モノの背景にあるストーリーを大切にするあなたにこそ、読んでほしい記事です。
BLACK MOUNTAIN CYCLESとMike Varley氏の自転車哲学
La Cabraを語る上で欠かせないのが、BLACK MOUNTAIN CYCLESの創設者であり、デザイナーのMike Varley(マイク・ヴァーリー)氏の存在です。彼は1988年から自転車業界に身を置き、HAROやMASIといった有名ブランドで長年製品開発に携わってきた、まさに自転車づくりのプロフェッショナル。
そんな彼が2007年にカリフォルニア州ポイントレイズ・ステーションという、自然豊かな土地で自身のバイクショップ「BLACK MOUNTAIN CYCLES」をオープンしました。彼が作るフレームは、彼自身の膨大な知識と経験、そして「自分が本当に乗りたい自転車」という純粋な思いが結晶化したものです。
La Cabraのアイデアの源流は、なんと1988年にマイク氏自身が自分のマウンテンバイクにドロップハンドルを取り付けた経験にまで遡ります。当時から彼はドロップバーでのオフロードライディングの可能性に魅了されていました。そして、多くのライダーから「MCD(モンスタークロス)フレームにもっと太いタイヤを履かせたい」という要望が寄せられるようになった時、彼は単なるマイナーチェンジではない、全く新しいフレームの設計を決意します。
そうして生まれたのが「La Cabra」。スペイン語で「ヤギ」を意味するこの名は、険しい山道をもろともせず、軽快に駆け上がっていく動物の姿をフレームに重ねています。まさにその名の通り、どんな道でもひらりと駆け抜ける走破性を秘めた、ドロップバー・マウンテンバイクが誕生したのです。これは流行りのグラベルバイクとは一線を画し、「ドロップバーで本格的な山道を走る」という明確な目的を持って設計された、彼の哲学の集大成なのです。
La Cabraのジオメトリ – 数字に隠された設計思想
自転車の乗り味を決定づける最も重要な要素、それがジオメトリです。ここではLa Cabraのジオメトリ表を元に、その特徴的な部分を抜き出し、ライドやビルドにどのような影響を与えるのかを僕なりに解説します。
サイズ別ジオメトリ表
サイズ | 16″ | 17″ | 18″ | 20″ | 22″ |
Seat Tube (c-t) | 405 | 432 | 460 | 508 | 560 |
Top Tube (eff) | 560 | 580 | 580 | 600 | 620 |
Head Angle | 70° | 70° | 70.5° | 70.5° | 70.5° |
Seat Angle | 73.5° | 73° | 73° | 72.5° | 72.5° |
Chain Stay | 444 | 444 | 444 | 444 | 444 |
BB Drop | 70 | 70 | 70 | 70 | 70 |
Head Tube | 150 | 175 | 175 | 205 | 230 |
Fork Offset | 55 | 50 | 50 | 50 | 50 |
Stack | 604 | 632 | 632 | 660 | 684 |
Reach | 378 | 385 | 385 | 390 | 403 |
サイズ別適応身長(公式サイト推奨)
- 16インチ: 5’6″ (約167cm) ~ 5’9″ (約175cm)
- 17インチ: 5’8″ (約173cm) ~ 5’11” (約180cm)
- 18インチ: 5’10” (約178cm) ~ 6’1″ (約185cm)
- 20インチ: 6’0″ (約183cm) ~ 6’3″ (約191cm)
- 22インチ: 6’2″ (約188cm) ~ 6’5″ (約196cm)
ジオメトリの注目ポイント
- 長めのトップチューブと短いステムの推奨 La Cabraは、一般的なグラベルバイクに比べてトップチューブが長めに設計されています。これは、短いステム(50mm〜70mm程度)を使うことを前提としているためです。これにより、オフロードでのハンドリングがクイックになりすぎず、かつライダーが重心を自転車の中心に置きやすくなり、荒れた路面での安定性が向上します。
- 寝かせ気味のヘッドアングル(70°〜70.5°) ヘッドアングルは、近年のマウンテンバイクほど極端ではありませんが、オフロードでの安定性を重視した数字です。これにより、下りでの安心感が高まり、直進安定性も確保されます。長距離のバイクパッキングでも疲れにくい、絶妙なバランスを狙っています。
- 低めのBBドロップ(70mm) BB(ボトムブラケット)の位置が低いと、自転車全体の重心が下がり、安定性が増します。特にコーナーリングや、荷物を積んだ際のふらつきにくさに貢献します。ペダリング時の一体感も感じやすい設計です。
- 長めのチェーンステー(444mm) 444mmというチェーンステー長は、タイヤクリアランスを確保しながら、直進安定性と登坂時のトラクション性能を高めるためのものです。急な登りでもフロントが浮きにくく、しっかりと路面にパワーを伝えてくれます。
これらの数字が組み合わさることで、La Cabraは「速く走る」ことだけを目的とせず、「どんな道でも安心して、楽しく走り続けられる」というキャラクターを明確にしているのです。Bikepacking.comのレビューでも「軽快なハンドリングと安定感の理想的なバランスを示している」と評されている通り、まさに計算され尽くしたジオメトリと言えるでしょう。
フレームスペックに見るこだわり
細部のスペックにも、ビルダーのこだわりが詰まっています。
- 素材: ダブルバテッド クロモリ鋼 やはりクロモリ。独特のしなやかさと堅牢性を両立。長く付き合える自転車の素材として、これ以上の選択肢はないでしょう。
- タイヤクリアランス: 29″ x 2.4″ または 27.5″ x 2.8″ このフレームの最大の特徴。MTB用の太いタイヤを装着できることで、走れるフィールドが一気に広がります。
- ハブ規格: Boost – フロント110x15mm / リア148x12mm スルーアクスル 現代のMTB規格であるBoostを採用。ホイールの剛性を高め、タフなライディングでもよれることのない安定感を生み出します。
- シートポスト径: 30.9mm(ドロッパーポスト内装対応) オフロードの下りをより楽しむためのドロッパーポストに対応。この仕様からも、このフレームが「本気で山を走る」ことを見据えているのが分かります。
- BB規格: 73mm JIS(スレッド) メンテナンス性に優れ、異音トラブルも少ないスレッド式BB。自分で整備をする楽しみも提供してくれます。
- ブレーキマウント: ISマウント 頑丈で信頼性の高いISマウント。最新のフラットマウントではない点が、むしろ質実剛健な思想の表れで好感が持てます。
- 豊富なアイレット フォークやフレーム各所に、ラックやケージを取り付けるためのアイレット(ダボ穴)を多数装備。バイクパッキングやキャンプツーリングへの対応力も万全です。
La Cabraが象徴するもの
La Cabraは、単にBLACK MOUNTAIN CYCLESのラインナップに加わった一つのモデル、というわけではありません。このフレームは、ビルダーであるマイク・ヴァーリー氏の自転車哲学そのものを象徴する存在です。
近年の自転車業界は、より速く、より軽く、そしてより専門的に、という方向へ進みがちです。しかしLa Cabraは、その流れに真っ向から逆らうかのように、「一台でどこまでも、どんな道でも楽しめる」という、自転車が本来持つべき普遍的な価値を思い出させてくれます。それは、流行を追いかけるのではなく、ライダーの純粋な「冒険したい」という気持ちに寄り添う姿勢の表れです。
スチールという素材選び、メンテナンスしやすいスレッドBBやISマウントの採用、そしてドロッパーポストへの対応。これら一つ一つの仕様が、見た目の派手さやカタログスペック上の軽さよりも、長く、安心して、そして心からライディングを楽しむための「実用性」と「信頼性」を最優先するというブランドの信念を物語っています。
La Cabraが象徴するのは、スペックシートの上で語られる性能ではなく、ライダーがフィールドで体験する「自由」そのものなのです。
こんな人におすすめしたい
La Cabraは、万人のためのフレームではありません。しかし、特定の目的を持つライダーにとっては、最高の相棒になるはずです。
- グラベルバイクでは物足りない冒険家 舗装路や綺麗な砂利道だけでなく、シングルトラックや本格的な林道にも臆することなく分け入っていきたい人。
- バイクパッキングやキャンプツーリングが好きな旅人 積載時の安定性と、どんな路面状況にも対応できる走破性を求める人。
- ドロップハンドルの快適さとMTBの走破性を両立させたい人 ドロップバーの多様なポジションを活かしながら、荒れた道を楽しみたい欲張りなライダー。
- 長く付き合える一本を求める人 流行に左右されない、本質的な価値を持つスチールフレームをじっくりと自分好みに育てていきたい人。
ヒロヤス的 おすすめビルドプラン
もし僕がこのフレームを組むなら…と想像が膨らみます。デザイン性と機能性を両立させた、こんなアッセンブルはいかがでしょうか。
- ホイール: 27.5+で組むならWTBのリムにインダストリーナインのハブ。走破性と遊び心を両立。29erで組むならWHITE INDUSTRIESのハブにVELOCITYのリムで、より長距離を意識した快速仕様に。
- ハンドル: SALSAのCOWCHIPPERやRITCHEYのVENTUREMAXなど、末広がり形状のフレアドロップハンドル。オフロードでのコントロール性を確保。
- ステム: PAULのBOXCAR STEMやTHOMSONのX4など、削り出しの美しいショートステムを。
- ドライブトレイン: Shimano GRXとXTのミックスコンポ、通称「GRX-T」。ワイドなギア比と信頼性を両立。
- ブレーキ: PAULのKLAMPERのような、美しく整備性の高いメカニカルディスクブレーキ。もしくはSHIMANO GRXの油圧ディスクで確実な制動力を。
- シートポスト: もちろんドロッパーポスト。BIKEYOKEやPNW COMPONENTSあたりが信頼性も高くおすすめです。
- サドル: WTBのVOLTやBROOKSのC17など、長距離でも快適なものを。
まとめ
BLACK MOUNTAIN CYCLESのLa Cabraは、ただの太いタイヤが履けるドロップバーバイクではありません。そこには、ビルダーであるマイク・ヴァーリー氏の長年の経験と、自転車に対する純粋な愛情、そして「ドロップバーで山を遊び尽くす」という明確な哲学が宿っています。
流行りのカーボンバイクのような軽さや派手さはありませんが、クロモリフレームならではの堅牢性と快適性、そして考え抜かれたジオメトリがもたらす安定感は、ライダーに「どこへでも行ける」という自信と、純粋に自転車を操る楽しさを与えてくれます。
一台の自転車とじっくり向き合い、様々なフィールドへ冒険に出かけたい。そんな真の自転車好きにこそ、このLa Cabraの価値が分かるはずです。僕もいつか、このフレームを手に入れて、大阪の裏山から、さらに遠くの知らない土地まで走り抜けてみたい。そんな夢を見させてくれる、本当に魅力的なフレームです。
この記事を読んで、La Cabraに興味が湧いた方、すでに乗っているオーナーの方、ぜひコメントであなたの意見やビルドのこだわりを聞かせてください。
それでは、また次の記事で会いましょう!ヒロヤスでした!
こんな記事も読まれています。





