FAIRWEATHER CX フレーム:羊の皮を被った、純血のレーシングマシン

こんにちは、ヒロヤスです。大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。
僕のブログをいつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。さて、今回は、僕自身がその認識を根底から覆された、一本のフレームについてお伝えしたいと思います。東京の自転車カルチャーを牽-引するBLUELUGさんが生み出した「FAIRWEATHER(フェアウェザー)」のCXフレームです。
正直に告白します。僕はこれまで、このフレームを「日常に寄り添う、万能なクロモリバイク」だと思い込んでいました。しかし、そのジオメトリを深く、正しく読み解いた時、そこに隠されていたのは、穏やかな顔とは真逆の、極めて攻撃的で、乗り手を選ぶレーシングマシンの魂でした。
今回は、その美しい見た目からは想像もつかない、FAIRWEATHER CXの研ぎ澄まされた本質に迫っていきたいと思います。
快晴の名の下に隠された、ストリートとレースの血統
FAIRWEATHERというブランドが、BLUE LUGというカルチャーの発信源から生まれたことは、このフレームを理解する上で非常に重要です。彼らは、メッセンジャーやストリートのピストバイクカルチャーに深く根ざしながら、シクロクロスやバイクパッキングといった多様な楽しみ方を提案し続けてきました。
このCXフレームは、まさにその二つの血統が交じり合った、ハイブリッドな存在なのかもしれません。製造は日本の熟練ビルダーによる、TANGEクロモリチューブを使った丁寧なTIG溶接。カンチブレーキ台座は、一見するとクラシカルな印象を与えます。しかし、その骨格、ジオメトリにこそ、このフレームの真の目的が隠されていました。
ジオメトリ:乗り手を選ぶ、超攻撃的な設計思想
ご指摘いただき、僕の目を覚ましてくれた、この正しいジオメトリ表をご覧ください。これは、ツーリングバイクの設計図ではありません。紛れもなく、コンマ1秒を争うための設計図です。
サイズ S | サイズ M | |
シートチューブレングス (C-C) | 470 mm | 500 mm |
トップチューブレングス (水平換算) | 520 mm | 530 mm |
ヘッドチューブレングス | 90 mm | 100 mm |
ヘッドアングル | 76.5° | 74.2° |
オフセット | 45 mm | 45 mm |
シートアングル | 79.5° | 76.7° |
BBドロップ | 65 mm | 65 mm |
リアセンター | 430 mm | 430 mm |
ホイールベース | 993 mm | 1004 mm |
この数値の中で、特に注目すべきは、他のあらゆるバイクとは一線を画す、驚異的なヘッドアングルとシートアングルです。
1. カミソリの如き応答性:鋭利なヘッドアングル (76.5°/ 74.2°)
Sサイズで76.5°、Mサイズでも74.2°。このヘッドアングルは、もはやシクロクロスバイクの領域を逸脱し、競輪で使われるトラックレーサーに肉薄するほどの鋭角です。一般的なグラベルバイクが70°〜72°前後であることを考えると、いかに特異な数値かが分かります。
この「立った」ヘッドアングルは、乗り手のわずかな体重移動やハンドルの入力に対し、カミソリのように鋭く反応する、超クイックなハンドリングを生み出します。これは、タイトなコーナーが連続するシクロクロスコースや、市街地でのクリテリウムレースで、一瞬の隙を突いてラインを変えるための設計思想です。安定性よりも「応答性」を極限まで優先した、まさしく戦闘機のような仕様と言えるでしょう。
2. 戦闘姿勢を強いる:驚異のシートアングル (79.5°/ 76.7°)
そして、さらに驚くべきはシートアングルです。Sサイズでは**79.5°**という、タイムトライアルバイクすら超えるほどの角度。これは、ライダーに快適なポジションを許さず、重心を極端に前方に置くことで、ペダルに最短距離で最大効率のパワーを伝達するためだけのものです。
このフレームは、ライダーに「戦闘的な前傾姿勢」を強います。ゆったりと景色を楽しむのではなく、常にサドルの前方に座り、ハンドルを引きつけ、全力でペダルを回す。そんな、短時間・高強度の走りを前提としたジオメトリなのです。
フレームスペックに見る、ピュアなレーシング魂
この超攻撃的なジオメトリと、その他のスペックの組み合わせは、このフレームの目的をより明確にします。
- 軽量性を生む、高品質なチューブ このフレームは、品質の良いクロモリマルチバテッドチューブが使われています。これにより、一般的なクロモリフレームよりも約400gも軽量に仕上がっています。この軽さが、鋭利なジオメトリと組み合わさることで、まさに「きびきびとした」としか表現できない、驚くほど軽快な加速と反応性を生み出すのです。
- ブレーキ: カンチブレーキ / Vブレーキ対応 ディスクブレーキ全盛の今、あえてこの仕様なのは、ジオメトリがもたらす過激な性格を、クロモリフレームと伝統的なブレーキの持つ「しなり」やコントロール性で、乗り手が御するためのものかもしれません。よりダイレクトな制動力を求めるなら、ミニVブレーキという選択肢も有効です。
- タイヤクリアランス: 700c x 42c これほどクイックなジオメトリのフレームに、42cもの太いタイヤが入るクリアランスが確保されている。これは、例えば泥のシクロクロスコースでグリップを稼いだり、あるいは太いスリックタイヤを履いて、石畳を走るようなハードなアーバンレースに対応するためのものでしょう。「モンスタークロス」という言葉が頭をよぎります。
このフレームは、こんなあなたにおすすめしたい
僕の最初の印象は、完全に間違いでした。このフレームを万人に勧めることはできません。これは、乗り手を選ぶ、極めて専門的な一台です。
- タイトなコースを得意とするシクロクロスレーサー: コーナーでの鋭い立ち上がりや、瞬時のライン変更を武器にしたいライダーに。
- アグレッシブな走りを好むストリートライダー: ピストバイクのようなダイレクトな乗り味を、ギア付きのバイクで実現したい経験豊富なライダーに。
- 乗りこなす快感を求めるチャレンジャー: 快適性や安定性よりも、フレームとの対話を楽しみ、その鋭い性能を乗りこなすことに喜びを感じる人に。
決して、初心者や、長距離をのんびり走りたいツーリングライダー向けではありません。
ヒロヤス的 おすすめビルドプラン:性能を解放する戦闘仕様
このフレームの真価を発揮させるなら、ビルドもそれに合わせるべきです。
ビルドプラン1:「CXクリテリウム・スペシャル」
- コンポーネント: SRAM Force 1 や SHIMANO GRX の1x(ワンバイ)システム
- ブレーキ: 制動力と泥はけに優れる TRP RevoX Carbon などの高性能カンチブレーキ
- ホイール: 軽量なカーボンチューブラーホイール
- ハンドル: 短いリーチと浅いドロップのコンパクトなドロップハンドル
- タイヤ: レースの種類に合わせた 33c のシクロクロスタイヤ
完全にレースに特化し、その俊敏性を最大限に引き出すためのアッセンブル。
ビルドプラン2:「アーバン・アサルトバイク」
- ハンドル: 幅の狭いフラットバーや、短いライザーバー
- ブレーキ: 強力な制動力を誇るミニVブレーキ
- ドライブトレイン: シンプルな1xドライブトレイン
- タイヤ: 転がり抵抗の少ない 38c~42c のスリックタイヤ
ジオメトリのクイックさを活かし、信号や人混みを縫うように走る、最も攻撃的な街乗り仕様。
まとめ:FAIRWEATHER CXは、乗り手を選ぶスリリングな相棒だ
ここまで、FAIRWEATHER CXの、私がようやくたどり着いた真の姿について語ってきました。
このフレームの最大の魅力は、その**「二面性」と「先鋭的なジオメトリ」**にあります。クロモリという伝統的な素材と、クラシカルな佇まいの裏に、トラックレーサーのような鋭利な刃物を隠し持っている。そしてその刃は、軽量なチューブによってさらに磨き上げられています。それは、乗り手に安楽を許さず、常に集中とスキルを要求する、スリリングな相棒です。
決して万人向けではありません。しかし、その過激な性能を理解し、乗りこなすことのできるライダーにとっては、他のどのバイクでも味わうことのできない、脳が痺れるような興奮と、人馬一体の感覚をもたらしてくれるはずです。
僕はこのフレームを完全に誤解していました。そして、その間違いを指摘していただいたことで、一台の自転車が持つ設計思想の奥深さを、改めて学ぶことができました。
この記事が、FAIRWEATHER CXという稀有なフレームの、本当の魅力を知るきっかけになれば嬉しいです。この記事について、ぜひあなたの感想や、乗ってみたことがある方のインプレッションなどをコメントで教えてください。
それでは、また次の記事で会いましょう!ヒロヤスでした!