クロモリに似合うクランクは、結局「スギノ」か「デュラ」か。それとも「ブルーラグ」か。
こんにちは、ヒロヤスです。大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。
僕のブログをいつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。
さて、今回は自転車の心臓部とも言える重要なパーツ、「クランク」についてお伝えしたいと思います。
特に僕たちが愛してやまないクロモリフレーム。あの細身で美しいスチールパイプのシルエットを最大限に引き立てるには、どのクランクを合わせるべきか。これは全クロモリ乗りにとって、永遠のテーマであり、最高に楽しい悩みどころでもありますよね。
デザイナーという職業柄、僕はモノの機能性はもちろんですが、その造形が空間(フレームの三角形)の中でどう機能し、どんな調和を生むのかを常に考えてしまいます。
最新のカーボンフレームなら、迷わず最新のコンポーネントに極太のカーボンクランクを合わせるのが「正解」かもしれません。しかし、クロモリという素材が持つ独特のしなりや、時代を超越した普遍的な佇まいを前にすると、現代的なボリューム感のあるクランクは、時に少し「お喋り」が過ぎるように感じてしまうことがあるんです。
これまで僕自身、数多くのバイクを組み、また大阪の街を走るこだわりの詰まった自転車たちを観察してきましたが、最終的に行き着くのは、やはり「スギノ(Sugino)」か「デュラエース(Dura-Ace)」、そして現代の解釈として「ブルーラグ(BLUE LUG)」のオリジナル。この三つの選択肢に集約されるのではないかと感じています。
これらのブランドは、単なるパーツメーカーという枠を超え、自転車に対する哲学や、乗り手が表現したい「文化」そのものを象徴しています。
今回は、なぜ僕たちがこれらの名前にこれほどまでに惹きつけられ、信頼を寄せているのか。それぞれのメーカーが持つバックストーリーや歴史、そしてデザイナーの視点から見た「クランク選びの核心」について、じっくりとお伝えしたいと思います。
日本が世界に誇る老舗、スギノエンジニアリングの美学
まずは、奈良に拠点を置く「スギノエンジニアリング(旧:杉野鉄工所)」についてお伝えしたいと思います。
創業は1910年(明治43年)。なんと110年以上の歴史を誇る、日本の自転車部品メーカーの重鎮です。
スギノのクランクがなぜこれほどまでにクロモリに似合うのか。その最大の理由は、彼らが頑なに守り続けている「冷間鍛造(れいかんたんぞう)」の技術と、そこから生まれる圧倒的な「面」の美しさにあります。
金属を叩き、密度を高めることで生まれる強靭さと、職人が一つひとつ丁寧に磨き上げたポリッシュ仕上げの輝き。それはもはや単なる工業製品ではなく、工芸品のような趣を湛えています。
また、スギノはかつて「サンツアー(SunTour)」の主要なパートナーとして、世界のトップレースでもその実力を証明してきました。1970年代から80年代、日本のモノづくりが世界を席巻したあの時代の誇りと情熱が、今もなおクランクの一本一本に刻まれている。この「バックストーリー」こそが、古いものを慈しみ、自分だけの物語を構築したいクロモリ乗りの感性に響くのだと僕は思います。
究極の機能美、シマノ・デュラエースという選択
一方で、もう一つの絶対的な選択肢が、大阪・堺から世界へと羽ばたいたシマノの最高峰、「デュラエース(Dura-Ace)」です。
1973年に初代が登場して以来、常に最新のテクノロジーを投入し、ツール・ド・フランスをはじめとする世界の頂点で勝利を積み重ねてきた、説明不要のブランドですね。
「クロモリに最新のデュラはハイテクすぎるんじゃないか?」
そう感じる方もいるかもしれません。しかし、シマノの設計思想の根底にあるのは常に「信頼」と「効率」です。その極致を突き詰めた結果として生まれる造形は、一切の無駄を排した「機能美」の結晶。
例えば、少し前の世代のデュラエースが持つ、滑らかな曲線と研ぎ澄まされたアルマイトの質感。それは、クロモリフレームが持つストイックな精神性と、見事なまでに共鳴します。
「最高峰の性能を、あえて細身の鉄フレームで使い切る」
この相反する要素の融合が生み出す緊張感こそが、デュラエースをクロモリに合わせる最大の醍醐味と言えるでしょう。
現代の自転車文化を再定義する、ブルーラグの創造性
そして、今や日本の、いや世界のバイシクルカルチャーを語る上で欠かせないのが、東京・渋谷から発信を続ける「BLUE LUG(ブルーラグ)」です。
2006年の創業以来、彼らは単なるショップの枠を超え、自分たちが本当に使いたいもの、今の街に馴染むものを形にするクリエイティブ集団としての側面を持っています。
彼らのモノづくりの根底にあるのは、オーセンティックな自転車への深い理解と、現代的な遊び心の融合です。
特にクロモリフレームに対して、彼らは「ヴィンテージの焼き直し」ではない、今の僕たちがリアルに使いやすく、かつ美しいと感じるデザインを提案し続けています。
ブルーラグが手掛けるオリジナルプロダクトは、デザイナーの目から見ても「痒いところに手が届く」絶妙なバランス感覚で成り立っています。大手メーカーが効率化のために切り捨ててしまった「細身でプレーンな造形」を、あえて今の時代に高精度で作り出す。その姿勢は、スペック至上主義になりがちなスポーツバイクの世界に、新しい風を吹き込んでくれました。
MTBとは異なる、ピストやクロモリロードに必要な「引き算」の美学
ここで少し、デザインの観点から僕が考えている「クランクの選び方」について深掘りしてお伝えしたいと思います。
もちろん、MTB(マウンテンバイク)であれば話は別です。ゴツゴツとした太いタイヤに、強固なサスペンション。荒地を切り裂くための道具としての力強さを強調するには、マッシブで無骨なデザインのクランクがよく似合います。そこには力強さを積み重ねていく「加点方式」の美しさがあるからです。
しかし、ピストバイクやクロモリロードとなると、話は全く変わってきます。
これらの自転車の本質は、限界まで無駄を削ぎ落とした「線の美しさ」にあります。特にホリゾンタルフレーム(トップチューブが水平なもの)が生み出す幾何学的な静寂の中に、主張の強すぎるクランクを置いてしまうと、視覚的なノイズが生まれ、全体のバランスが崩れてしまうんです。
僕が考える理想は、クランクがフレームの延長線上にあるような「シンプルなデザイン」であること。
影を落としすぎない細身のアーム、光を上品に跳ね返す表面処理。こうした「引き算」の美学を徹底したパーツこそが、スチールパイプの細い線を殺さず、むしろその繊細さを際立たせてくれます。
「目立たせること」ではなく「馴染ませること」で、結果として全体の完成度を高める。これが、僕がスギノやデュラ、そしてブルーラグのプロダクトを推す、デザイナーとしての最大の理由です。
スギノの美学を象徴する、珠玉のラインナップ
クロモリバイクにクラシカルな気品と、どこか優雅な空気感を与えたい時に選ぶべき逸品たちです。
Sugino Mighty Tour / Mighty Comp
スギノの代名詞とも言える「マイティ」シリーズ。かつての名作を現代の技術で蘇らせたこのモデルは、まさにクロモリロードの王道です。5アームの細身なデザインはホリゾンタルフレームとの相性が抜群で、特にシルバーポリッシュの輝きは、日光を浴びると宝石のように足元を彩ります。
Sugino SG75
ピスト乗りの間では、もはや説明不要の伝説的なクランクです。NJS(日本自転車振興会)認定の精度はもちろんですが、その完成された造形美は、シングルスピードや固定ギアという「削ぎ落とす美学」を体現するクロモリバイクにおいて、これ以上ない終着点となります。
デュラエースの歴史に刻まれた、不朽の名作たち
時代が流れても決して色褪せることのない、シマノの誇りが詰まったプロダクトたちです。
SHIMANO FC-7700 (Dura-Ace 7700シリーズ)
僕がデザイナーとして、最も美しいと感じるクランクの一つです。シマノが「中空クランク」を究めようとしていた時代の傑作。細身でありながら力強い立体感、そして光を柔らかく反射する仕上げ。現代のカーボンクランクにはない、機械としての色気がこのモデルには凝縮されています。
SHIMANO FC-7410 (Dura-Ace 7400シリーズ)
四角テーパーのBBに対応した、最後のデュラエース。この世代のクランクは、オールドスクールなクロモリフレームをビルドする際の「聖遺物」のような存在です。質実剛健でありながら、どこか気高い佇まいは、30年以上経ってもなお色褪せません。
ブルーラグが現代に投じる、RMCとYMCという解
今の空気感を纏いつつ、最高にクリーンな足元を演出してくれるプロダクトたちです。
BLUE LUG RMC Crank
「こんなのが欲しかった」を形にしたような、極めてシンプルなアルミクランク。余計なロゴや装飾を一切排除し、どんなクロモリフレームにも溶け込む汎用性の高さが魅力です。ヴィンテージパーツを探す苦労から解放され、現代のパーツで「あの頃の雰囲気」を再現できる、まさに僕たちの救世主的なプロダクトです。
BLUE LUG YMC Crank
こちらはさらに「山」や「道」を意識したような、どこか懐かしくも新しい佇まいのクランク。RMCよりも少しだけ表情があり、エブリデイバイクやツーリング車、ちょっと太めのタイヤを履かせたクロモリバイクに驚くほどマッチします。ブルーラグの「自転車を楽しむ」という文化的な背景が、このクランクには色濃く反映されています。
まとめ:あなたの「物語」を足元に宿すということ
いかがでしたでしょうか?
「クロモリに似合うクランクは、結局スギノかデュラか、それともブルーラグか」という問い。
今回の記事を通じて僕がお伝えしたかったのは、どのブランドを選ぶかという決断は、あなたがその自転車とどう向き合い、どんな風景を描きたいかという「意思表示」だということです。
スギノを選べば、そこには100年を超える日本のモノづくりの歴史と、伝統を重んじるエレガンスが宿ります。休日、お気に入りの喫茶店までゆっくりと流し、愛車を眺めながらコーヒーを飲む。そんなシーンにはスギノの輝きが実によく馴染みます。
一方でデュラエースを選べば、それは勝利を目指して磨き上げられたテクノロジーへの敬意であり、ストイックな機能美への挑戦です。峠道をストイックに攻め、鉄のしなりを限界まで引き出す。そんな「走りの情熱」を体現したいなら、足元にはやはりデュラの紋章が相応しい。
そして、ブルーラグのクランクを選べば、それは今の時代の空気感を取り入れ、肩の力を抜いて自転車を「生活の道具」として楽しむという、現代的なライフスタイルそのものを肯定することに繋がります。
MTBのような力強さも魅力ですが、ピストやクロモリロードが持つ「凛とした佇まい」を守るためには、やはりシンプルであることは譲れない条件だと僕は確信しています。
デザイナーとして一つ付け加えるなら、自転車は「パーツの集合体」ではなく「一つの思想」であるべきだと思っています。スギノか、デュラか、あるいはブルーラグか。あなたが選んだそのクランクが、フレームと、そしてあなた自身と調和したとき、その自転車は世界に一台だけの、物語を持った存在になるはずです。
僕個人としては、長年使い込まれて少し角が取れたポリッシュの質感に、その人の「走ってきた距離」を感じてグッとくることがあります。ピカピカの新品もいいですが、使い倒された道具に宿る美しさこそ、クロモリという素材が教えてくれる本当の贅沢なのかもしれません。
皆さんの愛車には、どんなクランクがセットされていますか?
「やっぱりスギノのあの磨きがたまらない!」という声や、「ブルーラグのRMCで最高にシンプルに組んでます!」といった皆さんのこだわりを、ぜひコメント欄で教えてもらえると嬉しいです。
それでは、また次の記事で会いましょう!ヒロヤスでした!



