Wilde Bicycles:オールシティの魂が宿る、道なき道を駆け抜ける「快適な旅」への誘い

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こんにちは、ヒロヤスです。大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。

最近、自転車系のSNSや雑誌を眺めていると、頻繁に目に飛び込んでくる、洗練されたデザインのスチールフレームのバイクがあります。ブランド名は**「Wilde Bicycle Co.」**。

そのどこか懐かしいのに新しい、そして温かみのある佇まいに、僕はすぐに心惹かれてしまいました。「これは一体、どんなブランドなんだろう?」と、デザイナーとしての好奇心から調べてみたところ、その背景には、僕たち自転車好きの心を揺さぶる、深いストーリーと確固たる哲学が隠されていました。

今回は、その謎多きブランド「Wilde」を、僕なりに深く掘り下げてみたいと思います。


1. 「Wilde」って、結局何者?オールシティの魂が宿るブランド

「Wilde Bicycle Co.」は、2021年にアメリカ・ミネソタ州ミネアポリスで誕生した、比較的新しいブランドです。

このブランドを語る上で、絶対に欠かせない人物がいます。それが、創設者である**Jeffrey G. Frane(ジェフリー・G・フレイン)です。彼の名前を聞いてピンときた方もいるかもしれません。そう、彼は、多くのサイクリストに愛されたブランド「ALL-CITY CYCLES」**の創設者であり、ブランドリーダーとして11年間、その魂を注ぎ込んできた人物なのです。

実は、ALL-CITYは近年、ブランドの方向性を転換し、かつてのようなスチールバイクを主軸としたラインナップを縮小していくことが発表されました。多くのALL-CITYファンがその決断に落胆する中、ジェフは、自らが長年培ってきた経験と情熱を注ぎ込むべく、新たなブランド「Wilde」を立ち上げたのです。

彼は、「ALL-CITY」の魂を継承しつつも、そこにとらわれない、より自由な発想で「最高のバイク」を創造しようとしています。そのパートナーとなったのが、同じミネアポリスを拠点とする有名なバイクショップ**「Angry Catfish Bicycle」**のオーナー、Josh Klauck(ジョシュ・クラウク)です。

二人の深い自転車愛と、妥協のないモノづくりへの情熱が融合して生まれたのが「Wilde Bicycle Co.」なのです。

2. ブランド哲学:「快適さこそ速さの秘訣」

「Wilde」のブランド哲学を最もよく表しているのが、ジェフが語るこの言葉です。

「”Comfort is speed”」(快適さこそ速さの秘訣)

これは、従来のロードレースに代表される「速さ」の概念とは、一線を画す考え方です。軽量化や空力性能を追求し、コンマ1秒を削る速さではなく、ライド中の快適性を追求することが、結果として疲労を最小限に抑え、長距離を安定した速度で走り続けることを可能にする。つまり、より長い時間、より遠くまで、より速く走るための秘訣は、身体に負担をかけない「快適性」にある、という思想です。

この哲学は、彼らのバイクの設計に深く反映されています。

  • ジオメトリへのこだわり: 乗り手にとって無理のない、快適なポジションで走れるジオメトリを追求しています。
  • TLCチューブ: 後述する独自のチュービングは、タフでありながらも、路面からの振動を効果的に吸収し、乗り手の疲労を軽減します。
  • 多用途性(Versatility): ロード、グラベル、バイクパッキング、トレイルなど、一つのバイクで多様なライドスタイルを楽しめる設計を重視しています。

彼らが目指しているのは、単なる速い自転車ではなく、乗り手が心からライドを楽しみ、自転車が持つ「人生を変える力」を最大限に引き出すための「最良の相棒」なのです。

3. Wildeを支える技術とモデルラインナップ

「Wilde」のバイクは、その哲学を体現するために、細部までこだわり抜いた設計がされています。

TLCチューブ:タフ、ライト、コンプライアンスの融合

「Wilde」の象徴とも言えるのが、彼らが独自に開発した**「TLCチューブ」**です。これは、”Tough, Light, and Compliance”(タフで、軽くて、しなやか)の頭文字を取ったもので、彼らの目指すバイクの理想そのものを表しています。

このチューブは、名門レイノルズ社の520番チューブをベースに、特定の部位の厚みを調整するなど、細かなカスタムが施されています。この工夫によって、クロモリの持つ本来の頑丈さと、しなやかな乗り心地を維持しながらも、一般的なクロモリフレームよりも軽量で、反応性の高い走りを実現しています。

代表モデルとそれぞれの個性

「Wilde」のラインナップは、大きく分けて以下の4つのモデルが中心となります。

  1. Rambler(ランブラー)
    • 特徴: ロードとグラベルの両方を快適に走れる、オールラウンドなグラベルロードです。
    • 詳細: スチール製のセグメンタルフォークを標準装備しており、ダイナモ配線用の穴が設けられるなど、本格的なツーリングにも対応できる設計が特徴です。BBハイトを少し高く設定することで、オフロードでの走破性を高めています。まさに、「快適な旅」を追求するWildeの哲学を体現したモデルと言えるでしょう。
  2. Rambler SL(ランブラーSL)
    • 特徴: Ramblerのフレームをベースに、カーボンフォークを装備したモデル。
    • 詳細: Ramblerよりもクイックでアグレッシブなジオメトリが特徴で、グラベルでの高速走行やレースにも対応します。カーボンフォークが軽量化と振動吸収に貢献し、ファンライドからシリアスな走りまで、幅広い楽しみ方を可能にします。
  3. Supertramp(スーパートランプ)
    • 特徴: バイクパッキングやアドベンチャーツーリングに特化したモデルです。
    • 詳細: 29×2.6インチという極太のタイヤを呑み込むクリアランスを持ち、フレーム全体に多数のダボ穴(マウントポイント)が設けられています。様々なラックやバッグを自由に取り付けることができ、「どこへでも行けるし、何でもできる」という冒険心を満たしてくれる一台です。人生で一台だけ自転車を持つなら、これを選ぶべきだ、とまで言われるほどの多用途性を誇ります。
  4. Dark Star(ダークスター)
    • 特徴: スライディングドロップアウトを備えた、プレミアムスチール製のトレイル向けハードテイルMTB。
    • 詳細: 遊び心がありながらも、スピードと楽しさを両立するジオメトリが特徴です。120mmまたは130mmトラベルのサスペンションフォークに対応し、キビキビとした小回りの効く乗り味で、トレイルでのライドを存分に楽しめます。

さらに、特筆すべきは、Wildeがアメリカ国内でのハンドメイドのカスタムオーダーラインと、より多くの人へ届けるための台湾製の量産品ラインという、二つの生産体制を併用している点です。これにより、世界中のサイクリストに、彼らのバイクを届けることが可能になっているのです。

4. なぜ僕たちの心を揺さぶるのか?

僕が「Wilde」に惹かれたのは、単に自転車としての性能だけではありません。デザイナーとしての視点から見ても、彼らのバイクは非常に魅力的です。

  • 機能美とミニマリズム: フレームのシルエットはシンプルで無駄がなく、必要なところにだけマウントポイントや加工が施されています。これは、装飾を削ぎ落とし、機能性を突き詰めることで生まれる「機能美」そのものです。
  • 細部へのこだわり: ハブダイナモの配線用の内蔵ルートなど、細部にまで行き届いた配慮は、使い手への深い理解と、自転車への愛情がなければ生まれません。こうした「見えないこだわり」が、僕たちデザイナーの心をくすぐるのです。
  • タイムレスなデザイン: 流行に左右されない、普遍的なデザインは、長く愛用できるバイクであることを物語っています。カーボンフレームのように、数年でモデルチェンジするのではなく、何十年も乗り続けられる、まさに「一生モノ」の相棒としての存在感を持っています。

5. まとめ:Wildeが示す、自転車の新しいあり方

「Wilde Bicycle Co.」は、単なる新しい自転車ブランドではありません。それは、「速さ」や「性能」といった既存の価値観に縛られず、もっと自由に、もっと楽しく、自転車という乗り物と向き合うことを提案する、新しいムーブメントの象徴だと僕は感じています。

ゴール前でのコンマ1秒を削るレースの世界も素晴らしい。しかし、僕たちが本当に自転車から得たいものは何でしょうか?美しい景色、風の音、仲間との語らい、そして何より、どこまでも行ける自由。

「Wilde」は、その自由を体現するバイクを、僕たちに提供してくれます。

もしかしたら、僕たちが本当に求めているのは、最高速度を記録できるバイクではなく、どんな道でも、どんな旅でも、どんな日常でも、心から楽しむことができる「快適な相棒」なのかもしれません。

さあ、皆さんも、Wildeのバイクに乗って、あなただけの「快適な旅」を探しに行ってみませんか?

それでは、また次の記事でお会いしましょう!ヒロヤスでした!

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Designer & Cr-Mo Freeks
中の人はCrust evasion乗り。クロモリ自転車とデザイン・作品制作に明け暮れる30第半ばのクリエイター。 海外の自転車ニュースやいろいろなフレーム・パーツがとても気になり、あれこれ見て調べてってやるならそれをまとめて見よう、ということでこのブログを解説しました。 飽き性が出ないよう根気よく続けていこうと思います。
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