シングルスピード化最終兵器・Paul製のチェーンテンショナー「Melvin」。

こんにちは、ヒロヤスです。大阪の街を今日も自転車で駆け抜けているアラフォー、デザイナーの僕です。
僕のブログをいつも読んでくださっている皆さん、本当にありがとうございます。さて、Paul Componentを巡る探求の旅、これまで数々の主役級パーツをご紹介してきましたが、今回は自転車カスタムの「縁の下の力持ち」、しかし、ある種のフレームにとっては唯一無二の救世主となる「Melvin(メルビン)チェーンテンショナー」の物語です。
シングルスピード。そのシンプルな美しさ、静かでダイレクトな乗り味は、多くの自転車乗りを魅了してやみません。しかし、いざ自分の愛車をシングル化しようとした時、多くの人がぶつかる大きな壁があります。それが「縦型ドロップアウト(バーティカルドロップアウト)」問題です。
「このお気に入りのフレーム、ドロップアウトが縦型だからチェーンが張れない…シングル化は諦めるしかないのか…」
そんな絶望的な状況に、Paul Componentは、あまりにも美しく、そしてあまりにも賢い解決策を用意してくれていました。Melvinは、単なる妥協の産物ではありません。それは、あなたの愛車の可能性を解き放ち、新たなカスタムの世界へと誘う、CNC削り出しの魔法の鍵なのです。
哲学は細部に宿る – Paulのモノづくり
このMelvinにもまた、Paul Componentの哲学が色濃く反映されています。カリフォルニア州チコで、6061アルミニウムの塊からCNCマシンが時間をかけて削り出す、頑丈で美しいボディ。プーリーには滑らかなシールドベアリングが採用され、静かで確実なチェーンテンションを約束します。
チェーンテンショナーという、ともすれば「後付け感」の出てしまいがちなパーツを、バイクのルックスを格上げするほどの機能美にまで昇華させてしまう。この徹底したこだわりこそ、PaulがPaulたる所以なのです。
Melvinが存在する理由 – 「縦型ドロップアウト」という壁
そもそも、なぜこのMelvinが必要なのでしょうか?それは、自転車のフレームエンド(ドロップアウト)の形状に理由があります。
- ホリゾンタルドロップアウト: トラックエンドとも呼ばれ、エンドが真横に長いため、ホイールを前後に動かすことでチェーンの張りを調整できます。ピストバイクや一部のシングルスピード専用フレームに採用されています。
- バーティカルドロップアウト: 現代のロードバイクやMTBの主流。ホイールを真下に「ストン」と落とし込む形状で、ホイール位置が固定されるため、チェーンの張りを調整する余地がありません。
つまり、ディレイラー(変速機)が付いていることが前提の、この「縦型ドロップアウト」のフレームをシングルスピード化するには、何らかの方法でチェーンに張り(テンション)を与える必要があるのです。Melvinは、そのための最も確実で、最も美しい答えなのです。
Melvinを唯一無二たらしめる、驚くべき機能性
市場には他にも安価なチェーンテンショナーは存在しますが、Melvinがそれらと一線を画す理由は、その独創的な設計思想にあります。
1. 2輪プーリーがもたらす、驚異のチェーンラップ性能
一般的なチェーンテンショナーが1つのプーリーでチェーンを「押し下げる」だけなのに対し、Melvinはリアディレイラーのケージのように、2つのプーリーでチェーンを「S字」に巻き取ります。これにより、非常に多くのチェーンのたるみ(スラック)を吸収することができます。そのキャパシティは、なんと最大で歯数差20T。この強力なチェーンラップ性能が、確実なチェーン保持と、後述する驚きのカスタムを可能にするのです。
2. 「ディングルスピード」という新たな扉
この驚異的なチェーンラップ性能は、単なるシングルスピード化に留まらない、新たな可能性の扉を開きます。それが**「ディングルスピード(Dingle Speed)」**です。
ディングルスピードとは、クランク側に2枚、リアコグも2枚のギアを装着し、「高速ギアの組み合わせ」と「低速ギアの組み合わせ」の2つのシングルスピードを使い分けるカスタムのこと。(例:42T-16Tの高速ギア、38T-20Tの低速ギアなど)
普段の街乗りは高速ギアで、週末に山へ遊びに行くときは、一度チェーンをかけ替えて低速ギアに。そんな「一台二役」の夢のようなバイクを、Melvinが可能にしてくれるのです。これは、1輪プーリーのテンショナーでは決して真似のできない、Melvinだけの特権です。
どんなカスタムでその真価を発揮するか?
Melvinは、眠っていたフレームを蘇らせ、自由な発想のカスタムを実現するための最高のツールです。
- 90年代MTBのシングルスピード化 クロモリ全盛期の、あの頃憧れたMTBフレーム。その多くが縦型ドロップアウトです。Melvinを使えば、そんな名車を現代のストリートで輝く、クールなシングルスピードバイクとして再生できます。
- モダンなグラベルフレームのシングル化 最新のグラベルフレームやシクロクロスフレームを、あえてシングルスピードで組む。エキセントリックBBなどを使わずに、クリーンで静かな究極のシンプルバイクを構築できます。
- 究極の多目的コミューター 前述のディングルスピードを活かし、平日は高速通勤仕様、週末は荷物を積んだツーリング仕様や、子どもを乗せるための超低速ギア仕様に、といった変幻自在のバイクを組むのも面白いでしょう。
まとめ – Melvinは「自由への鍵」である
今回は、Paul Componentの「Melvinチェーンテンショナー」という、知る人ぞ知る名品について掘り下げてみました。
Melvinは、単にチェーンのたるみを取るための部品ではありません。それは、フレームが持つ「変速機を付けるべき」という宿命から、僕たちを解放してくれる**「自由への鍵」**なのです。過去の名車を現代に蘇らせ、一台の自転車に複数の顔を持たせ、僕たちの「こうだったらいいな」という空想を、美しい形で現実のものとしてくれる。
デザイナーの僕から見れば、これは制約の中で最高の解決策を見つけ出す、非常に優れた「問題解決のデザイン」です。Paulが、ニッチだけれども確実に存在するサイクリストの悩みに、ここまで真摯に、そして美しく向き合ってくれたこと。その事実に、僕たちは感謝すべきなのかもしれません。
あなたのガレージに眠っている、縦型ドロップアウトのあのフレーム。Melvinがあれば、まだ見たことのない、新しい景色を見せてくれるかもしれませんよ。
あなたのシングルスピードへのこだわりや、ユニークなカスタムがあれば、ぜひコメントで教えてくださいね。
それでは、また次の記事で会いましょう!ヒロヤスでした!